インプラント治療のための抜歯、お疲れ様でした。
手術後の食事について、「いつから何を食べられるの?」「普通のご飯はいつから?」と不安に思っていませんか?
抜歯後の食事は、傷口の回復を左右する非常に重要な要素です。
この記事では、インプラント抜歯後の食事開始時期から、回復段階ごとのおすすめメニュー、避けるべき食べ物、食事の際の注意点までを網羅的に解説します。
正しい知識を身につけ、トラブルなく順調な回復を目指しましょう。

インプラントのための抜歯後、食事は局所麻酔の効果が完全に切れてから可能になります。
個人差はありますが、麻酔が切れるまでの目安は手術後およそ2〜3時間です。
麻酔が効いている間は、唇や頬、舌の感覚が鈍くなっています。
この状態で食事をすると、熱いもので口の中を火傷してしまったり、誤って唇や頬の内側を噛んでしまったりする危険性が非常に高いです。
新たな傷を作ってしまうと、痛みが増すだけでなく、回復を遅らせる原因にもなりかねません。
焦らずに、まずは唇や舌の感覚が完全に戻ったことを確認してから、最初の食事を始めましょう。
ただし、麻酔が切れたからといって、すぐに何でも食べられるわけではありません。
手術当日は、傷口に負担をかけない特別な食事が必要です。
普通の食事はいつから?1週間~1ヶ月後が目安
多くの方が気になる「普通の食事」に戻れる時期ですが、これは抜歯後1週間〜1ヶ月後がひとつの目安となります。
この期間に大きな幅があるのは、抜歯した歯の部位や本数、手術の難易度、そして個人の回復力によって治癒のスピードが異なるためです。
一般的には、抜歯後1週間ほどで抜糸を行い、その頃には歯茎の表面の傷はかなり落ち着いてきます。
しかし、歯茎の内部や顎の骨が完全に回復するには、さらに時間が必要です。
特にインプラント治療を前提とした抜歯の場合、その後のインプラント体を埋め込むために、土台となる顎の骨がしっかりと再生されることが重要になります。
自己判断で硬いものや刺激物を食べ始めてしまうと、回復が遅れたり、感染症を引き起こしたりするリスクがあります。
必ず歯科医師の診察を受け、許可が出てから徐々に普段の食事に戻していくようにしましょう。
なぜ抜歯後に食事制限が必要なのか?主な3つの理由
「どうしてこんなに食事に気をつけないといけないの?」と疑問に思うかもしれません。
抜歯後の食事制限には、スムーズな回復のために欠かせない、明確な理由があります。
1. 傷口の保護と感染予防
抜歯した後の穴には、「血餅(けっぺい)」と呼ばれる血の塊ができます。この血餅は、傷口を保護し、骨の再生を促す「かさぶた」のような非常に重要な役割を果たします。硬い食べ物などが当たって血餅が剥がれてしまうと、骨が露出し、激しい痛みを伴う「ドライソケット」という感染症を引き起こすリスクが高まります。また、食べかすが傷口に入り込むと、細菌が繁殖して炎症の原因となります。
2. 出血の抑制
手術当日は、まだ出血しやすい状態です。熱いものや香辛料の効いた刺激物を食べると、血行が促進され、一度止まったはずの血が再び出てくることがあります。食事内容に気をつけることで、再出血のリスクを最小限に抑えることができます。
3. 痛みや腫れの軽減
抜歯後は、多かれ少なかれ痛みや腫れといった症状が現れます。傷口への物理的な刺激や温度による刺激を避けることで、これらの不快な症状を悪化させることなく、穏やかに回復させることができます。食事は毎日のことだからこそ、少しの配慮が回復期間の快適さを大きく左右します。
【時期別】インプラント抜歯後に食べられるものリスト

抜歯後の回復は、時間とともに段階的に進んでいきます。
その時期に合わせて食事内容を調整していくことが、順調な回復への近道です。
ここでは、時期別に食べられるものの目安と、具体的なメニュー例をご紹介します。
抜歯当日(手術後〜24時間)の食事
手術当日は、最も安静が必要な時期です。
食事も、傷口に一切の負担をかけないことを最優先に考えましょう。
噛まずに飲み込める流動食が中心
この時期の食事のポイントは、「噛まずに飲み込めること」「人肌程度の温度であること」の2点です。
熱いものは出血の原因に、冷たすぎるものは刺激になるため避けてください。
栄養を摂ることは大切ですが、無理に食べようとせず、水分補給をしっかり行うことを意識しましょう。
当日におすすめの食事メニュー例
- 重湯、具のないおかゆ
- ポタージュスープ、冷製スープ(人肌に温める)
- ヨーグルト(飲むタイプや固形物が入っていないもの)
- 栄養補助ゼリー(ウィダーインゼリーなど)
- 野菜や果物のスムージー(種のないもの)
- プリン、ムース
抜歯後2日〜3日の食事
痛みや腫れがピークを越え、少しずつ落ち着いてくる時期です。
流動食から、少し形のあるものへとステップアップしていきましょう。
柔らかく調理された食事がおすすめ
食事のポイントは、「舌や歯茎で簡単につぶせるくらいの柔らかさ」です。
噛むときも、必ず抜歯した歯の反対側を使うように意識してください。
この時期から、炭水化物だけでなく、傷の回復を助けるタンパク質やビタミンも意識して摂り始めると良いでしょう。
2日〜3日後におすすめの食事メニュー例
- おかゆ、雑炊
- 柔らかく煮込んだうどん(細かく刻む)
- 豆腐(冷奴、湯豆腐)
- 茶碗蒸し
- マッシュポテト
- スクランブルエッグ、温泉卵
- 白身魚の煮付け(骨を完全に取り除く)
- かぼちゃの煮物(皮なし)
抜歯後4日〜1週間の食事
痛みもかなり和らぎ、食事の幅がぐっと広がる時期です。
普通の食事への移行期間と捉え、慎重に食べられるものを増やしていきましょう。
徐々に普通の食事へ移行する期間
この時期は、柔らかく調理されていれば、ほとんどのものが食べられるようになります。
ただし、まだ傷口は完全に治癒したわけではありません。
引き続き、抜歯した側で噛むのは避け、硬いものや刺激物は控えましょう。
4日〜1週間後におすすめの食事メニュー例
- 柔らかく炊いたご飯
- パン粥、フレンチトースト
- 鶏ひき肉や豆腐を使ったハンバーグ
- クリームシチュー
- リゾット
- そうめん
- バナナ、よく熟した桃
- カニカマ
抜歯後1週間以降の食事
多くの場合は抜糸も終わり、日常生活における制限がかなり少なくなってきます。
食事もほぼ普段通りに戻せますが、最後の詰めが肝心です。
患部を避けつつ、ほとんどの食事が可能に
抜糸が終わると、歯茎の表面はきれいに見えますが、内部の骨が完全に再生するにはまだ時間がかかります。
油断して硬いものを患部で噛んでしまうと、治りかけの組織を傷つけてしまう可能性があります。
せんべいやナッツ、硬い肉などは、歯科医師からOKが出るまでは避けるのが賢明です。
不安な場合は、次の検診時に「〇〇はもう食べても大丈夫ですか?」と具体的に確認すると良いでしょう。
インプラント抜歯後におすすめの食事|コンビニで買えるもの

「抜歯後に料理をする元気がない」「手軽に食事を済ませたい」という方も多いでしょう。
最近のコンビニエンスストアには、抜歯後でも安心して食べられる商品が豊富に揃っています。
スープ・汁物
- カップスープ(ポタージュ、コーンスープなど): 粉末をお湯で溶くだけで手軽に作れます。熱すぎないように少し冷ましてから飲みましょう。
- レトルトの味噌汁・スープ: 豆腐やわかめなど、具が柔らかいものを選びましょう。
- 春雨スープ: 春雨も柔らかく、食べやすいメニューの一つです。
主食(おかゆ・うどんなど)
- レトルトのおかゆ: 温めるだけですぐに食べられるので非常に便利です。白がゆのほか、卵や鮭など、柔らかい具材が入ったものもあります。
- 冷凍うどん: 鍋で煮込むだけで、好みの柔らかさに調整できます。
- 栄養補助ゼリー: 食欲がない時でも、手軽にエネルギーとビタミンを補給できます。
おかず(豆腐・茶碗蒸しなど)
- 豆腐(絹ごし、充填): パックから出してすぐに食べられます。醤油を少し垂らすだけで立派なおかずに。
- 茶碗蒸し: 栄養バランスも良く、抜歯後の食事として非常に優秀です。
- 温泉卵: そのまま食べても、おかゆやうどんに乗せても美味しくいただけます。
デザート・間食(ゼリー・プリンなど)
- プリン、ゼリー、ムース: 口当たりが良く、噛まずに食べられるので術後すぐから活躍します。
- ヨーグルト: 腸内環境を整える効果も期待できます。フルーツの果肉入りは、種や硬い部分がないか確認しましょう。
- アイスクリーム: 腫れや痛みを和らげる効果も期待できますが、冷たすぎると刺激になるため、少し溶かしてからゆっくり食べるのがおすすめです。
栄養補助食品・飲料
- プロテインドリンク: 食事が偏りがちな時に、傷の回復に必要なタンパク質を手軽に補給できます。
- 野菜ジュース: ビタミンやミネラルの補給に役立ちます。酸味が強いものはしみる可能性があるので注意しましょう。
インプラント抜歯後に避けるべき食事と飲み物

順調な回復のためには、「何を食べないか」も非常に重要です。
ここでは、抜歯後に避けるべき食べ物・飲み物とその理由を具体的に解説します。
硬い食べ物(ナッツ・せんべいなど)
傷口を直接傷つけたり、血餅を剥がしてしまったりするリスクが最も高い食べ物です。
顎に強い力がかかることで、痛みが増す原因にもなります。
- 具体例: せんべい、ナッツ類、フランスパン、りんごや梨の丸かじり、骨付き肉、スルメイカ
刺激の強い食べ物(香辛料・酸味の強いもの)
香辛料や酸味は、むき出しになっている傷口にしみて強い痛みを引き起こします。
また、血行を促進する作用があるため、出血や腫れを悪化させる可能性があります。
- 具体例: 唐辛子、カレー、キムチ、わさび、胡椒、レモン、グレープフルーツ、酢の物
熱すぎる・冷たすぎる食べ物
極端な温度のものは、傷口への強い刺激となります。
特に熱いものは血管を拡張させ、出血や痛みの原因となりやすいため、必ず人肌程度に冷ましてから口にしましょう。
- 具体例: 熱々のラーメンやグラタン、沸かしたてのお茶やコーヒー、かき氷
患部に残りやすい・詰まりやすい食べ物(ゴマ・ひき肉など)
粒が小さい食べ物は、傷口のわずかな隙間に入り込みやすく、感染の原因になります。
一度入り込むと自分では除去が難しく、歯医者で洗浄してもらう必要が出てくることもあります。
- 具体例: ゴマ、イチゴやキウイの種、ひき肉、ネギのみじん切り、パンくず
アルコール・飲酒はいつから?最低でも1週間は控える
アルコールには血管を拡張させ、血流を良くする作用があります。
抜歯後に飲酒すると、痛みや腫れが強くなったり、再出血したりするリスクが非常に高まります。
また、処方された抗生物質や痛み止めの効果に影響を与え、副作用を強くしてしまう可能性もあります。
最低でも抜糸が終わるまでの1週間、できれば傷口が完全に落ち着くまで(2週間〜1ヶ月)は禁酒するのが理想です。
| 避けるべき食べ物・飲み物 | なぜ避けるべきか | 具体例 |
|---|---|---|
| 硬い食べ物 | 傷口を傷つけ、血餅を剥がすリスクがある | せんべい、ナッツ、フランスパン、硬い肉 |
| 刺激の強い食べ物 | 傷口にしみて痛み、出血や腫れを悪化させる | カレー、キムチ、柑橘類、酢の物 |
| 熱すぎる・冷たすぎるもの | 傷口への刺激となり、出血や痛みの原因になる | 熱々のラーメン、グラタン、かき氷 |
| 詰まりやすい食べ物 | 傷口に入り込み、感染の原因となる | ゴマ、イチゴの種、ひき肉 |
| アルコール | 血行を促進し、出血や腫れを悪化させる。薬の効果に影響 | ビール、日本酒、ワインなどすべての酒類 |
食事の際の6つの注意点|トラブルを防ぐために
食事の内容だけでなく、「食べ方」にもいくつか注意点があります。
これらを守ることで、ドライソケットなどの術後トラブルを効果的に防ぐことができます。
注意点1:麻酔が完全に切れてから食事を始める
繰り返しになりますが、これは最も重要な注意点です。
感覚が戻らないうちに食事をすると、高確率で口の中を傷つけます。
焦らず、完全に感覚が回復するのを待ちましょう。
注意点2:抜歯した歯の反対側で噛む
食事の際は、常に抜歯した側とは反対の歯で噛むことを意識してください。
これにより、傷口への食べ物の接触や圧力を避けることができます。
しばらくは癖になるまで意識し続けることが大切です。
注意点3:ストローの使用は1週間以上避ける
意外と知られていない注意点ですが、ストローで飲み物を吸う行為はNGです。
吸う力によって口の中が陰圧(真空に近い状態)になり、傷口の血餅が掃除機のように吸い出されてしまう危険性があります。
これはドライソケットの最大の原因の一つです。
同様の理由で、麺類を勢いよくすする行為も控えましょう。
注意点4:強くうがいをしない
食後に口をきれいにしたい気持ちはわかりますが、「ガラガラ」「ブクブク」といった強いうがいは禁物です。
これもストローと同様、水圧で血餅が剥がれてしまう原因になります。
食後は、水を口に含み、頭を傾けるようにして静かに水を行き渡らせ、そっと吐き出す程度に留めましょう。
注意点5:栄養バランスを意識する
柔らかい食事を続けていると、どうしてもおかゆやうどんといった炭水化物に偏りがちになります。
しかし、傷ついた組織が回復するためには、タンパク質やビタミン、ミネラルといった栄養素が不可欠です。
豆腐や卵、白身魚、栄養補助食品などをうまく活用し、バランスの良い食事を心がけましょう。
注意点6:食後は優しく口をゆすぐ
傷口が気になって歯磨きをためらってしまうかもしれませんが、口の中を不潔にしておくと細菌が繁殖し、感染のリスクが高まります。
食後は、抜歯した箇所を避け、歯ブラシで他の歯を丁寧に磨きましょう。
傷口の周りは、前述の通り優しく口をゆすぐか、歯科医師の指示があれば洗口液を使用してください。
インプラント抜歯後の食事に関するよくある質問
最後に、患者様からよく寄せられる質問についてお答えします。
Q1. 親知らずや奥歯の抜歯後と食事の注意点は同じですか?
A. はい、基本的な注意点はほとんど同じです。
抜歯した後の傷の治り方や注意すべきことは、どの歯であっても共通しています。
ただし、インプラントのための抜歯は、その後のインプラント治療を成功させることが最終目標です。
そのため、土台となる顎の骨がきれいな状態で治癒することが特に重要になります。
通常の抜歯以上に、歯科医師の指示を厳密に守り、慎重にケアを行うことが推奨されます。
Q2. 辛いものはいつから食べられますか?
A. 辛いものなどの刺激物は、傷口に直接的な痛みをもたらすため、慎重に再開する必要があります。
明確な基準はありませんが、少なくとも抜糸が終わり、歯茎の傷が完全に塞がってからにしましょう。
目安としては、抜歯後2週間〜1ヶ月程度です。
再開する際も、最初は少量から試してみて、痛みや違和感がないかを確認しながら徐々に慣らしていくのが安全です。
Q3: 食事ができない時の栄養補給はどうすれば良いですか?
A. 抜歯後の痛みや腫れが強く、どうしても食事が喉を通らないという時もあるでしょう。
そんな時は無理に固形物を摂ろうとせず、栄養価の高い飲み物や流動食を活用してください。
ドラッグストアなどで手に入る栄養補助ゼリーや、タンパク質が豊富なプロテインドリンク、野菜や果物を使ったスムージーなどがおすすめです。
何よりも脱水症状を防ぐことが大切なので、スポーツドリンクや経口補水液などでこまめな水分補給を心がけてください。
Q4. 抜歯してからインプラントはいつ入れますか?
A. これは食事の質問とは少し異なりますが、関連性が高いためお答えします。
抜歯してからインプラント体(人工歯根)を埋め込むまでの期間は、抜歯した箇所の顎の骨や歯茎の状態によって大きく異なります。
一般的には、抜歯窩(ばっしか)と呼ばれる抜歯した穴が治癒し、骨が安定するのを待つため、2ヶ月〜半年程度の期間を空けることが多いです。
骨の量が不足している場合は、骨造成(GBR法など)という骨を増やす処置を先に行う必要があり、その場合はさらに長い期間が必要になることもあります。
最適なタイミングは、レントゲンやCTで骨の状態を精密に検査した上で、歯科医師が判断します。
まとめ:インプラント抜歯後の食事は歯科医師の指示に従い、回復を最優先に
インプラント抜歯後の食事は、「いつから食べられるか」という点だけでなく、「何を」「どのように」食べるかが非常に重要です。
この記事でご紹介した内容をまとめます。
- 食事開始: 麻酔が完全に切れる2〜3時間後から
- 当日の食事: 噛まずに飲める流動食(おかゆ、スープ、ゼリーなど)
- 回復期の食事: 柔らかいものから徐々に普通の食事へ移行
- 避けるべきもの: 硬い・辛い・熱い・詰まりやすいもの、アルコール
- 食べ方の注意点: 反対側で噛む、ストローNG、強いうがいNG
抜歯後の食事制限は、一時的に不便を感じるかもしれませんが、これは将来的に快適なインプラント生活を送るための大切な準備期間です。
自己判断で食事を元に戻したり、無理をしたりすると、回復が遅れるだけでなく、再手術が必要になるような深刻なトラブルにつながる可能性もあります。
最も大切なことは、担当の歯科医師や歯科衛生士の指示をしっかりと守ることです。
食事について少しでも不安や疑問があれば、遠慮なくクリニックに相談してください。
正しい食事とケアを心がけ、スムーズな回復とインプラント治療の成功を目指しましょう。
※本記事は一般的な情報提供を目的としており、個別の症状を診断するものではありません。抜歯後の食事やケアについては、必ず担当の歯科医師の指示に従ってください。